神罰の声は高らかに

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 叶えてやっても良い、そう思わせれば十分。だがその十分が果てしなく遠いのは誰よりもカオルが知っている。  心が軋み、長い口上に嘆願、プレッシャーに震える手足を黙らせ、荒稼ぎしたお金という魔法をちらつかせご機嫌を伺う。何ともやってることは勇者らしくないがこれ以上疲弊するのは避けたい、その一心。  長い間沈黙は破られなかった。カオルが述べた言葉、それらが終わるまでには数時間が経過していたがその間誰も喋らなかったのだ。  カオルの口が閉じ、法王が小さく頷き灰色の瞳を伏せる。それが合図だったように一人法衣を纏う老獪な老人が前へと進み出た。  笑顔を浮かべているがその笑顔には欺瞞と怠惰憤怒と悦楽が滲み出ているようで思わず顔を背けたくなるとても人間として醜い顔に映った、その老人が元老院の一人であることを長々と説明し本題に入るのだ。 「勇者カオル、そなたは本当に勇者カオルであるか?」 「紛れも無く剣の国勇者カオル・シノザキです。懐中時計もお見せしたはず、嘘偽りなどありません」 「貴国は悪魔と手を組んだと噂されておる。悪魔は知っての通り狡猾で矮小にて誇りなど無い下等な生物、だがその狡猾さは時に国をも飲み込む。度重なる連戦連勝、その影に悪魔が見え隠れしているのは調査済なのだ」 「私が悪魔、または悪魔に操られている、と?」    圧倒的強者が絶対の自信を覗かせる瞳は驕りに満ち、口から吐き出されるのはヘドロのような悪意。天使が舞い降りた国の清らかさなど一切感じさせない負の感情がただ一人、カオルへと向けられる。  言葉を選び探るように投げかける質問に元老院であるジョゼフは確かにカオルを見下しながら首を振るのだ。 「そうは言っておらぬよ、ただ元老院の一人として、この国の一人として悪魔などという絶対悪を許せないのだ。神聖なこの国を侵させはしない決意と取ってもらいたい。私は臆病でね、ただもう一度だけ悪魔がその身に宿っていないか確認させてほしいのだ、突然で不躾な願いだがこれもまたこの国を思えばこそ、主神の心眼によって白が証明された暁には前向きに検討していくことを約束しよう」  そのジョゼフの左右に立つのはカオルが警戒した男女、右手に手袋をしている女と左手に手袋をしている男。  
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