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和也さんは、フッと笑うと、右手をあたしの左頬に当てた。
月明かりに照らされた和也さんの横顔が、妖艶に、艶やかにうつる。
「璃子、お前の知ってる俺は、仕事してる部長。まだ半分の俺だよ。
ここで一緒に生活して、残りの半分の本来の俺を知ってくれ。
璃子も少しずつ自然な璃子を出しながら、上司と部下の関係を通り越して、ふたりの関係が深まればいいと思っているんだ。
さん付けも、敬語もここでは抜きにして、本来のふたりで生活出来ればと、思っているんだ。
無理は言わない、だけど、嬉しい事、悲しい事をふたりで何でも話し合って、少しずつでいいから、ゆっくり歩み寄って歩いていこう」
いつも見ている和也さんとは違って、本当に穏やかな視線を投げかける。
少しずつ心の何かが溶けていくような……
不思議な感覚に包まれた。
「はい、ありがとうございます」
「『ありがとう』だよ」
「あっ、申し訳ありません。1日のうち起きてる時間の半分以上が、上司の和也さんとの時間なので……少しずつ治しますね」
相変わらず抜けない丁寧語に、思わずふたりで笑った。
あたしたちの心の距離は、ゆっくり……ゆっくり……縮まり始めた。
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