◇◇ 第15章 ふたりの生活 ◇◇

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    コーヒーをひとくち飲んで、ホッとひと息ついた。 「ねぇ、桜井。松本部長ったら、あんたのこと『璃子』って呼んでたね」 ニヤリと嬉しそうに笑う村上姉さん。 「えっ!?そうでしたか?」 全く気づかなくて、言われた今、あたしは恥ずかしさに襲われた。 会社で、あたしを呼び捨てに、する? 「だよっ!今日、朝から何度も、桜井を呼ぶ度に、『璃子』って言ってた」 「……」 「松本部長ったらヤルよねぇ~忙しくて、誰も気づかないし、9連休の後だから、周りもそんな風に呼んでたかも?なんて思っちゃうもん」 「そうですか?」 「だって、呼ばれてる桜井が気づかないくらいなんだから、松本部長の作戦大成功でしょ! 松本部長の為に、あたしも桜井のこと『璃子』って呼ぶことにするわっ」 やけに嬉しそうな村上姉さんがあたしを見つめていた。 「っで、引っ越ししたの?」 村上姉さんは、限られた時間の中で、確実に重箱の隅をつつくような質問をしてくる。 これがサッカーなら間違いなくエースストライカーだ。 「……はい」 遠慮がちに答えるあたしに 「じゃあ、その話しは次回!」 と、言ってニヤリと笑うと 「さぁ~もうひとがんばり!」といいながら、あたしの肩を叩き、フロアに戻って行った。          
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