◇◇ 第17章 交錯する想い ◇◇

32/38
2148人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「璃子、立てるか?」 和也さんは、優しく声をかけると、右手であたしの鞄とケーキの袋を持ち、左手であたしの右腕を持って立ち上がらせた。 次の瞬間、あたしは和也さんの腕を払いのけた。 「イヤッ!」 一瞬で罪悪感に駆られたあたしは、すぐに謝った。 「ごっごめんなさい」 「どうした?」 突然払われた手に、驚いた和也さんが、それでも穏やかに尋ねる。 あたしは、手の震えが止まらない。 「スーツから、冴子さんの香水の匂いがします」 そう。和也さんの左腕は、さっき冴子さんが腕を絡めていた方の腕。 一瞬眉間にシワをよせた和也さんは、サッとジャケットを脱ぎ、鞄と袋とを一緒に左腕で持つと、あたしの腰に右腕を回して 「帰ろう」 と、呟き、あたしを支えながらエントランスに向かった。 あたし……何やってるんだろう。 優輝さんとのキスを見られたかもしれないのに、つい冴子さんの残り香に過敏に反応して 和也さんの優しさまでもを払いのけた。 あたしは、『別れ』を切り出される覚悟をした。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!