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コツ… コツ… コツ…
それはとても落ちついていて、規則正しく、真っ直ぐこちらに向かっていた。
マンションの住人だ!
慌てたあたしは、へたりこんでいるのが恥ずかしくて、思わず革靴の音のする方へ顔を上げた。
後ろのエントランスの灯りに照らされ浮かび上がるシルエット。
顔の表情は、暗くて見えないけど
それは……
あたしが見慣れたシルエットだった。
あたしは、目を見開いたまま凍りついて、そのまま動けなくなった。
和也……さん?
なんで……いるの!?
あたしは、現実を受け入れる事が出来なくて
ただひたすら怯えた。
見てたよね?
エントランスから出てきたんだもん。
あたしが帰って来たのがわかったんだもん。
見てたんだよね?
身体がすべて心臓になったかのように、全身が脈打つ。
シルエットの主は、真っ直ぐあたしの前まで来ると、あたしの目線までそっと腰をおろした。
「おかえり、璃子」
いつも通りの心地のよい穏やかな声。
微笑みを湛えた顔は、いつも通りの優しい和也さんだった。
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