◇◇ 第17章 交錯する想い ◇◇

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コツ… コツ… コツ… それはとても落ちついていて、規則正しく、真っ直ぐこちらに向かっていた。 マンションの住人だ! 慌てたあたしは、へたりこんでいるのが恥ずかしくて、思わず革靴の音のする方へ顔を上げた。 後ろのエントランスの灯りに照らされ浮かび上がるシルエット。 顔の表情は、暗くて見えないけど それは…… あたしが見慣れたシルエットだった。 あたしは、目を見開いたまま凍りついて、そのまま動けなくなった。 和也……さん? なんで……いるの!? あたしは、現実を受け入れる事が出来なくて ただひたすら怯えた。 見てたよね? エントランスから出てきたんだもん。 あたしが帰って来たのがわかったんだもん。 見てたんだよね? 身体がすべて心臓になったかのように、全身が脈打つ。 シルエットの主は、真っ直ぐあたしの前まで来ると、あたしの目線までそっと腰をおろした。 「おかえり、璃子」 いつも通りの心地のよい穏やかな声。 微笑みを湛えた顔は、いつも通りの優しい和也さんだった。
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