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エレベーターに乗ると、和也さんは何事も無かったかのように優しく話始めた。
「カフェに行ってきたんだね」
きっと、あたしからコーヒーの薫りがしたのだろう。
「……はい」
あたしは、緊張から、どこか一線引いた受け答えをしている。
「楽しかった?」
「……はい」
和也さんに優しく声をかけられればかけられるほど、あたしには後ろめたい事が多すぎて、普通の会話すら、責められているように感じる。
勝手に責められていると感じたあたしは
「和也さんも冴子さんと楽しかった?」
と、聞きたくも無いことを口走っていた。
扉を開け、玄関に入る。
自動で玄関の明かりが灯る。
早く逃げたい気持ちからか?あたしは慌てて部屋に上がろうとしていた。
和也さんの手が、あたしの左手首をグッと掴んだ。
振り返ると、和也さんが穏やかに澄んだまっすぐな瞳で、あたしを見つめている。
別れを切り出されるのか?
怒られるのか?
あたしは、有りとあらゆる『負』のイメージを想像していた。
だけど、和也さんがあたしにかけた言葉は、意外にも違うものだった。
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