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「はあ……。久しぶりにこんなに走ったよ」
芝生に倒れると、リディー崩れるようにも座り込んだ。
「ごめん。つい思いっきり走っちゃった」
リディーは僕のほうを見たと思うと、息が上がったままファインダーを覗いて、シャッターを切り始めた。
カシャ、カシャッというシャッター音を聞きながら、僕は芝生に転がって空を見上げた。木漏れ日が降り注ぎ、キラキラした光が零れ落ちてくる。
「本当に好きにしていていいの」
「いいよ」
リディーはもうカメラから目を離さない。まるでそれ自体が彼女の一部みたいに。
花壇の上を歩いたり、ベンチの上に寝たり。リディーと会話しながら、僕はひとり公園で戯れる。絶え間なく聞こえ続けるシャッターの音が、まるで音楽のように思えた。
噴水の上に乗って水に手を伸ばすと、飛び散った霧の中に虹が浮かんだ。
「リディー見て。虹だ！」
「本当だ。綺麗！」
リディーもカメラを置いて、噴水に上がって来た。虹に手をかざすリディーの横顔が、一瞬とても美しく見えて、僕は慌てて目をそらした。
ドボンと大きな音がして音のしたほうを見ると、リディーが噴水の中にいた。
「ちょっと、何しているの」
「気持ちよさそうだったから入っちゃった」
「入っちゃったって。早く上がって来なよ」
手を伸ばすと、彼女は笑いながら僕の手を勢いよく引いた。
「うわっ！」
刹那、大きな音を立て僕は噴水の中に飛び込んでいた。
「トーゴったら、びしょ濡れ」
お腹を抱えて笑うリディーに、僕も噴水の中に座り込んだまま、呆れて笑うしかなかった。
「本当にどれだけめちゃくちゃなんだよ。それでも大人なの」
「さあ、大人っていくつになったら大人なのかな」
「少なくとも僕よりは大人でしょ」
「そうね、多分。トーゴはいくつなの？」
「十六」
なぜそのとき、嘘をついてしまったのか、自分でもよく分からない。ただ子どもに見られたくなかっただけなのかもしれない。
「リセに通っているんだ。日本人って若く見えるって言うけど、本当にそうなのね」
本当はまだ十四で、コレージュの学生だって知ったら、リディーはどう思うんだろう。今なら、嘘だって言える。
考え込んで黙ってしまった僕に、リディーはいきなり両手ですくった水をかけてきた。
「うわ！ もう何すんだよ」
「私は十九。トーゴと違って大人でしょ」
「どこがだよ」
足で軽く水を蹴ったら、頭までびしょ濡れになるまで水をかけられた。
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