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小柄な女子の蹴りなのだから、普通はそうそう効かない。しかし、相手は二つ名を持っているわけで……。
「な、なかなかやるな!」
混乱する俺に猫宮アリスが話しかける。少々慌てている所を見ると、さっきの蹴りは全力だったのか?
「いや、俺何もしてませんよ……」
「そう謙遜することはない。ないったら、ない。わたすぃの蹴りを止めたのは、君で96人目だぜ、ボーイ」
割といるじゃねぇかーーって、ちょっと待て。
何で会話が成立している。耳栓はーー機能している。歓声も自然の音も何も聞こえてこない。
聞こえて来るのは、この人の声のみ。
猫宮アリスはニヤリと笑い、俺を指差す。
「聞こえない程度で私様の歌を聴けないなんて、勿体無いことさせねぇよ」
やっぱ、そう甘くいくわけねぇか。
皐月マリアの言葉を思い出す。
見るのはヤバイ。呼吸もヤバイ。聞くのは一番ヤバイ。
確かこんな事言ってた気がする。
最初は意味がわからなかったが、今はなんとなくだが、わかる。
猫宮アリスの歌は、聞かなければ済む魔法じゃない。
歌う姿を見ても、ある程度の空間の空気を吸ってもアウトなんだ。
自分でもなんて言ってるか、わかんねぇ。まぁ空気感染? そんな感じ。
「だってさー、可哀想じゃん。耳の聞こえない人にもわたすぃの歌を知ってもらいたいし、それすら無理な人にも知ってもらいたい」
皐月マリアが負けるわけだ。いや、皐月マリアじゃなくても勝てねぇよ。
どうやったら、いいんだよこんな人。
「何せ私の歌を聴けないなんて、人生の120%は損してますから」
コロコロとキャラが変わるこの人を俺は、怖いと思ってしまった。
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