3317人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
瑛岑の屋敷に着いた後、彼に抱きかかえられて私室にまで運びこまれると、初めて嫉妬という感情に苛(サイナ)まれた瑛岑に何度も何度も求められた。
「・・・いま・・・何時?」
朝なのか夜なのかさえも分からない。分厚い布で覆われたままの部屋の中は、薄暗く、少し息苦しい。
先ほどまでの濃密な時間がまだ空気に漂っている。
「そんな事訊く余裕があるんだね」
怖い顔で自分を見下ろす瑛岑に、ギリギリ手首を掴まれまたより一層激しく求められる。
雪が許してもらえたのは、あれから三日後だった---
「---痛いっ!」
耳朶に鋭い痛みを受けて、目が覚める。何か針のようなもので刺されたらしい。
「なに・・・?」
視線をやると、自分の耳に何かをしている瑛岑の姿。衣服も身に着けぬまま、何をしているのか。
「クスッ・・・好く似合うよ」
そう言って雪の頬を撫でる。
「---?」
耳に手をやると、何か両耳に刺さっている。
「耳飾りだ。無理をさせたお詫びに」
お詫びに勝手に人の耳朶に針を刺すこともなかろうが、これで瑛岑の気が済むならと諦めた。
刺さってしまっているものは仕方ない。
耳朶を飾るその翡翠の耳飾りが恐ろしく高価だと云う事には、ずいぶん後になって気付くのだった。
「けれどますます君の端麗な美貌に拍車がかかってしまうな」
苦笑する彼は、けれども満足そうに。
「そろそろ自宅に帰るかい?」
雪の事を気遣う。
顔の腫れが引くまでと数日過ごしたが、そろそろ帰らねば母も煩くなっている頃だろうし。
何より早く彼女に会いたかった。
「ねえ・・・君?」
雪の耳朶に触れながら、己の贈り物を眺めている。
「君はこれからどうしたいの」
雪が何かをしようとしているのに、気付いていたのだ。
「・・・チカラが欲しい」
そう、父に対抗するだけの。
「強くなりたい」
誰かの力を借りるのではなく、自分自身が強く成らねば。
「そう・・・」
己ならば守ってやれるのに、そんな瑛岑の本音が聞こえた気がした。
「僕には僕自身しかないから」
そう。血筋も家柄も、自分のものではない。あるのはこの躯ひとつ。
「僕自身を贄にする」
そう凛とした決意で、瑛岑の瞳を真っ直ぐに見つめた。
何も持たない少年の、最初の決意だった。
最初のコメントを投稿しよう!