第4話 ~華贄(ハナニエ)~

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瑛岑の屋敷に着いた後、彼に抱きかかえられて私室にまで運びこまれると、初めて嫉妬という感情に苛(サイナ)まれた瑛岑に何度も何度も求められた。 「・・・いま・・・何時?」 朝なのか夜なのかさえも分からない。分厚い布で覆われたままの部屋の中は、薄暗く、少し息苦しい。 先ほどまでの濃密な時間がまだ空気に漂っている。 「そんな事訊く余裕があるんだね」 怖い顔で自分を見下ろす瑛岑に、ギリギリ手首を掴まれまたより一層激しく求められる。 雪が許してもらえたのは、あれから三日後だった--- 「---痛いっ!」 耳朶に鋭い痛みを受けて、目が覚める。何か針のようなもので刺されたらしい。 「なに・・・?」 視線をやると、自分の耳に何かをしている瑛岑の姿。衣服も身に着けぬまま、何をしているのか。 「クスッ・・・好く似合うよ」 そう言って雪の頬を撫でる。 「---?」 耳に手をやると、何か両耳に刺さっている。 「耳飾りだ。無理をさせたお詫びに」 お詫びに勝手に人の耳朶に針を刺すこともなかろうが、これで瑛岑の気が済むならと諦めた。 刺さってしまっているものは仕方ない。 耳朶を飾るその翡翠の耳飾りが恐ろしく高価だと云う事には、ずいぶん後になって気付くのだった。 「けれどますます君の端麗な美貌に拍車がかかってしまうな」 苦笑する彼は、けれども満足そうに。 「そろそろ自宅に帰るかい?」 雪の事を気遣う。 顔の腫れが引くまでと数日過ごしたが、そろそろ帰らねば母も煩くなっている頃だろうし。 何より早く彼女に会いたかった。 「ねえ・・・君?」 雪の耳朶に触れながら、己の贈り物を眺めている。 「君はこれからどうしたいの」 雪が何かをしようとしているのに、気付いていたのだ。 「・・・チカラが欲しい」 そう、父に対抗するだけの。 「強くなりたい」 誰かの力を借りるのではなく、自分自身が強く成らねば。 「そう・・・」 己ならば守ってやれるのに、そんな瑛岑の本音が聞こえた気がした。 「僕には僕自身しかないから」 そう。血筋も家柄も、自分のものではない。あるのはこの躯ひとつ。 「僕自身を贄にする」 そう凛とした決意で、瑛岑の瞳を真っ直ぐに見つめた。 何も持たない少年の、最初の決意だった。
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