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先日少年が愁一郎に見つかりそうになってから、少年の訪れがパタリと止んでしまった。
月華は縁側にあてもなくなく座り、一日とはこんなに空虚に長いものかと考える。
あの日無理矢理ここで愁一郎に抱かれてから来ないと云う事は、恐らく知られてしまったのだろう。
一番知られたくない人に知られてしまったということが、ことさら身に堪えた。
---もうお花は持ってきてくれないわね
少年がもう来ない事が良い事なのに、この寂寥(セキリョウ)感はなんだろう。心に大きな穴が空いたようだ。
そっと自分の胸に手を当ててみる。
今は愁一郎も忙しいのか、あの後一、二度ほどしか訪れていない。
彼が忙しい時には良くある事で、今まで別段何も感じなかったはずなのだが。最近は特に一人の時間を持て余していた。
目が見えれば読書などで暇を潰せただろうが、見えぬ目で出来る事は知れている。
このまま誰も訪れず、独り朽ち果ててしまうのだろうか。誰かが来なければ、他人と触れあう事もないのだと、その事実に今更気付き、言いようもない不安と恐れが背後から押し寄せてきた。
何か出来ないか・・・
フト思いつき、世話係を呼び寄せる。
「組み紐・・・でございますか?」
昔幼い頃近所の老婆が編んでいたのを思い出した。見よう見まねで編ませてもらったりもしたので、おぼろげながら覚えている。
上手に出来なくてもかまわない。誰に献上する訳でも売る訳でもないのだ。
時間なら嫌というほどある。
月華の望むものは全て与えよと云う愁一郎の厳命が、初めて行使される事となった。
世話係が屋敷の執事にそれを告げに行くと、快く承諾してくれすぐに手配の事となった。
その帰り道、本邸の使用人にこっそりと打ち明けられた内容に、驚きで声を上げそうになってしまう。
「雪坊ちゃまが・・・」
あの日現場に居た使用人から、どうやら雪が離れに行った事が愁一郎に知られ、肋骨を折るほどの折檻を受けたという。
やはりあの男はあそこに人が居るのを勘付いて居たのだ。
恐ろしい程に勘の鋭い男。騙せるはずもなかった。
容体を訪ねると、奥方に秘密にするために、懇意にしている黎家の元へ行っているのだという。
まだ戻って来ない所を見ると、まだ良くないのだろう。月華に会いたくても会えぬのだ。
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