~黙って、手、触っていい?~

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信秀の場合ー 「結婚しよう」 俺は耳元ではっきり言った。 三ヶ月前の言葉をもう一度繰り返す。 俺はライターだ。 文章で書くときは脚色した言葉を使い、ストーリを作る仕事をしている。 だけど、話す時くらいは、脚色しない、ストレートな言葉を使いたい。 誤解のない、シンプルな言葉をあえて。 曲解など生まれないように。 大好きな人の前では。 「こんな私で良ければ もらってください」 ゆりちゃんはそう言った。 俺は、友達は要らない。 友達は要らない。 結婚相手が欲しいって思う。 もう一人で居るのには疲れた。 だれかのために生きるのも良いと思っていた。 一人で居る時間も好きだけど 一緒に居る時間も楽しい。 ゆりちゃんといる時間はとても楽しかった。 俺に楽しみを教えてくれた。 ゆりちゃんは時々、すごく寂しそうな顔をする。 その顔を見ると俺の方まで泣きそうになる。 その表情を見るだけで、俺は彼女には何か影があるってことに気づいてはいたー だけど、 俺はそのことに気づかないようにした。 俺はのび太くんだから、 相手の幸せを望む。 どんなに自分が虐められても、それに気づかないふりをする。 いじめられてもいい。 こんな石ころ帽子をかぶっているような、誰の目にも留まらないような、俺に、 少しでも関わってくれたなら、俺にとっては凄く幸せなことだからー
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