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アルバート殿が仰るには、この世界のものには全て役割がある。植物や食べ物にまで。なれば己や姉上の役割はなんだ?この世界に入ったのだから恐らく己と姉上にもそれは適用される筈で。アルバート殿が別の世界の奴等と言ったのは己にではなく文字通り、己達の他に別世界の者をこの世界に呼び寄せていたのだとしたら。自分達の世界に帰る手段は女王に謁見すること。それは女王自身が理解しているのだから、女王に会う事がこの世界に来る者達の役割なのか。
「眉間にシワがよっておるぞ有住。」
「わん!」
「わん?あ、姉上その規格外なお犬様は何処から…?」
考え込み周りを見ていなかった。姉上は十二尺(約3.6m)程の犬を撫で回しており、じゃれつきが行き過ぎよう物なら片手で鼻面を抑え込む教育的指導を繰り返し、呆然とする己を放置して犬を完全に服従させている。
「こいつに乗って夫人の処へ行くぞ。歩けばかなりの距離になるゆえ。」
犬は伏せて姉上の乗りやすいよう体勢を崩し、姉上が首元にまたがれば此方を見やってくる。愛くるしく丸い瞳は黒曜のように光輝き、鳶色の毛並みはふわりふわりと風に遊ばれているその様のなんと可愛らしいことか!!アルバート殿の手入れの行き届いた真珠の毛並みも素晴らしく、絹のような手触りだったがこちらはこちらでなんとも言いがたい穢れを知らぬ純真さに近い
「いつまで吹っ飛んでおる気だ。はようせぬか。」
犬の愛らしさについ震えていると姉上は痺れを切らし、土まみれの犬の足を己の顔面に直撃させた。
「有り難う御座います!!!!」
我々の業界では御褒美です姉上。だがこれ以上待たせると姉上に亡き者にされるので、土塊を払い落とし再び頭を下げた犬に声をかけつつ背に跨がった。すると瞬きひとつ軽々立ち上がり姉上の命ずるまま、犬は道無き道を駆けていく。馬よりか揺れの回数は少ないが、一度の衝撃が凄まじく腹に来る。思わず体勢を崩しかけると前に座る姉上が後ろ手に己の腕を取り、引き上げて自身の着物を握り込ませる。
「落ちることに恥を感じるならば、大人しく掴まっておれ!」
「御手数お掛け致します…」
本当に男前過ぎます姉上
「恥じる前に落ちれば全身打撲と脳挫傷、複雑骨折に内蔵破裂で即死だがの。」
「ぜっっっっっっっったいに離しませぬ!!」
この速度と衝撃ですもんね!そりゃそうなりますよね!
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