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朝は明け六刻、姉上の手には上掛け。冷気に晒される己の身体に眉根がよるのはいた仕方ないと思うのだが兎も角、
「男の寝所に入るなどはしたないとは思わぬのですか姉上。」
年端もいかぬ幼児ならいざ知らず数えで二十でしょうに、息付き居ずまいを整える己に姉上はようよう口を開く
「遠駆けに行くわよ。」
決定事項じゃないですかーやだー
「何故?」
「行きたくなったから。早く仕度なさいな。」
「解せぬ」
「ぬかしおる」
これは断ると己の首と身体が泣き別れる事になるので気は進まぬが言われるがまま己は遠乗りの仕度を進める。母上はすでに聞き及んでいたのか御厨からひょこりと顔を覗かせ微笑むと風呂敷包みを手渡してきた。
「朝餉も間に合わぬでしょうし、詰めておきましたから一息付いたら御上がりなさいな」
「ありがとうございます」
包みを受け取り下げた頭に母上は手を乗せゆるゆるとなぜた。あぁその穏やかさをどうか姉上に別けてくだされ。
「さぁ有子が待って居るわ。気を付けていくのよ。」
「いってまいります」
離れる母上の手に名残惜しさを感じながら己は姉上の待つ門へ脚を進めた。ぶっちゃけマザコンと言われても私は胸を張って是と声をあげるだろう。母上マジ天女。姉上と血が繋がってると思えませぬ。
「遅い。」
「面目次第も。」
風呂敷を手に走り寄れば開口一番批難される。ここで否やを唱えるのは愚か者のすることだ。己が直ぐ様頭を下げ謝罪を口にすると姉上はふんと鼻を鳴らし愛馬にひらりと跨がった。今日は何やら姉上の様子が可笑しい。我儘も己に対する独裁者ぶりも何時も通りなのだが常なら機嫌を損ねた途端薙刀が飛んでくるはず。何が姉上を大人しくさせているのか解らぬが己の身が安全ならなんの問題も無いではないかと思い直し己の愛馬、馬耳東風に跨がり姉上の後を追った。
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