姉上=ゆうこ=有子=アリス

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「一先ず腹もくちくなったし、とっととこの部屋でて猫を探すぞ。」 「御意に。しかし姉上、出口が見ありませぬが...」 手早く広げていた荷物を片付け立ち上がり居ずまいを正す。ぐるりと見渡しながら身体を伸ばせば、姉上は再び巨大な折り鶴の前に仁王立ちしソレに話しかけた。 「二人揃うたぞ。問題なかろう?猫はどこじゃ」 【おお猛き剛の者よ。汝再び会い見える日を我心待いたり。】 ごうごうと空気を震わせ低くくぐもった男の声が部屋に響く。生無き物から発せられる音は部屋に着いた時耳にした音と酷似している。この物が話していたのだろう、目も耳も口すらないがどういった作りで話しているのか検討もつかぬ。只姉上には瑣末な事柄なのであろう意にも止めず、というかこいつなんで姉上に謙ってるんだ?剛の者ってなにかやらかしましたんですね姉上。初対面と言って良いのか解らぬが申し訳ない気持ちになった己はそっと折り鶴から視線を外し乾いた笑いを漏らした。 「前置きは要らぬ。猫の居場所を知らぬか。」 【片割れの行く術を選びたもうた先にて、あな恐ろしき獣は笑い満ち足りると】 「ふん、前ようには行かぬぞ。あれは変わり種、華咲けばソレは愉快な事になろうて」 【女王の御心のままに】 「物好きよの。よい、開けよ。」 話し込む双方とも意味がわからず行く末を見守っていた己に姉上は手招きながら折り鶴に命ずると、ぎりりぎりりと軋みながら出口の門...否、入り口は淡い光を纏いながら姿を現した。黒檀の様に黒光り重厚ながらも繊細な彫りが一層きらびやかである。 「有住、重を手放すでないぞ。それとこれを。」 門を前に手渡されたのは小さな折り亀と紙手鞠、そして瓢箪。瓢箪に括り付けられた和紙には<飲むがよい>と書かれている。怪しすぎて飲む気も失せるのだが... 「これらは後々必要になるのでな。よいか、中に入ったらなにも口にしてはならぬ。水すらも、だ。」 「....御意に。」 ソレなんて黄泉竈食ひですかそんな危ないところに行くのですか。己のSAN値がピンチです姉上。
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