WELCOME TO LIAR STORY!

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    ◆   ◆  木村セイナが死んでいると思った理由。  特に彼は今まで人の死に直面した事も無ければ、道端で死体を発見しその事件を解いた事も無い。極々普通の人生を歩む彼にとってしかし死体の放つ雰囲気と言うものは異端で、それが死んでいると“分かってしまう”。振り返ってみれば首が捩れて顔があらぬ方向に向かっているからだ、とか。涙と涎が不自然に線を作っているからだ、とか。いつもは献身的で真面目で感性豊かな表情も瞳も虚ろになっているから、とか。  しかし、あくまで死んでいると分かっただけでシイタにはそれに追いつくキャパシティは持ち合わせていない。もう一度目の前の光景を整理してみる。首が折れて、悲しそうに十五年の人生に幕を下ろした木村セイナ。上半身の服がいささか乱れ、胸元が見えている。こんな時でなければ垣間見える白い簡素な下着や素肌に思うことはあるのだが、そんな暇も隙も無い。そして彼女のスカートのポケットに手を突っ込んでいるのは天才、天野サギリだ。 「……なに……やってんの……?」  その言葉を掛けられる前から天野サギリはシイタに気付いていた。しかし彼は特に見られたと焦る様子も無く、寧ろ笑顔をこっちに向けてきた。  否定してほしかった。サギリが来た時には彼女は殺されていて、服が乱れているのは蘇生活動を行った結果だって。あるいは今は未知の蘇生魔法を試しているって。幼馴染ではあれど天才として目標だったサギリは人殺しをしていないって。  否定して欲しかった。 「これは話がはぶけたね。君にはこうする前に話しておきたかったんだけど」 「あんたが……殺したのか?」 「皮肉なものだよね。ただ首を捻るだけで死んでしまうなんて。人の命を奪うのに魔法も科学もいらないんだぜ?」  スカートのポケットから何かを取り出すサギリ。鍵――だろうか。セイナのモノである事は間違いないが。  立ち上がると空間端末を出現させる。何か特殊なプログラムを打ち込んでいるようにも思えた。 「なあシイタ。この世界の人間は死んだら何も手をつけなかったらどうなるんだ?」  質問の意図が分からない。  セイナが死ななければならない理由が分からない。
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