WELCOME TO LIAR STORY!

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 人払いの魔法を掛けていたはずの教室に、次から次へと人間が押し寄せてくる。人間のデータ。正確にはそう言えばいいのだがそのデータが扉から窓から教室を埋め尽くさん勢いで入ってくる。ある程度サギリの周りに空白を空けて、小さな教室内にはサギリ達を含めて四十人。しかし外にはもう既にここの生徒の人口一万人が待ち構えている事だろう。 「抵抗は無駄だ。アマノサギリ。貴様はこの世界を知りすぎた。世界はお前を致命的なバグと認定した。実世界のお前も後に廃棄させられるだろう」  普通ならば。普通ならば――この世界において死と言うのは存在しない。この夢のような空間では死が起きないように人間関係的に最も良好になるような位置に一人一人置かれて考えている。致命傷を負ったとしてもこの世界のプログラムは“奇跡的に”助かるようになっている。  誰も知らない、天野サギリが知りすぎた事。  もしもそのプログラムから見捨てられたとしたら。  実世界のその人も、躯となる。外の世界で自分の身体がどのようにコールドスリープさせられているのかはあまり想像がつかなかったがカプセルから追い出され、そして恐らくは――。  木村セイナは言う。  いつもの健気で清純な気配は影すら無い。 「第一制限を解いたこのデータ達はこういう時の為の、“禁断魔法(チート)”を扱うことが出来る。貴様が使うことの出来る“第零級魔法”よりもランクは上だ」 「首の骨を念入りに折って、胸を串刺しにするべきだったか……」 「通常のIDを持つものならばそれで削除されるだろうが、木村セイナは管理者権限によって例え体が爆破されようとも蘇る」 「……はは」  遅かった。  というよりは、無駄だったのだろう。いかにタイミングが早かろうとも、遅かろうとも結局同じ事だった。たかだか天才が一人頑張った程度で、それは小説の登場キャラクターが著者に逆らうようなもので、それは結局紙の上のインク。  物語を掌の上で転がす存在に勝てる道理など無かったのだ。 「くそ……これはずるいよ」  膝を折り、ただ審判を待つサギリ。  ただ、人をあるべき姿に返したかっただけなのに――とはいえこの願いはただの独り善がりだろう。政府からハッキングして奪い取った構造のデータを探る内に、既に人類は外の世界に出た途端に目に見えて滅んでいってしまう、そういう事実も見えていた。  当然の、報いか。
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