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「セイナちゃん――一つ聞かせてくれ。今の君といつも僕に見せてくれた人格は別のものかい?」
セイナは、管理者は答えた。何も表情を変えずに。
「そうだ。違和感を覚えないように木村セイナとしてのデータ人格を作り、その中からお前を監視していた」
「じゃあ……“木村セイナ”が僕に抱いてくれていた感情も、僕が彼女に抱いていた心も間違っていないかった訳だ。彼女は僕のことを好きだったかい?」
「ああ、木村セイナは貴様に恋愛感情を抱いていた――そういう風に、作られていた」
所詮は作り物だった。
でも殺すときの泣き顔で、たとえデータだろうとも罪悪感で一杯になっていた所だ。
まだデータで、作り物の恋愛感情でよかった。
最後に――健気に見上げるセイナの顔が見たかったけれど。生きてくれているなら、それでいいや。首を折ったとき、痛かっただろう。本当にごめんね。でも最後に自分の声は届いてくれたかな?
僕も君の事が、好きだったよ、と。
そして彼は“禁断魔法”を教室中の生徒から浴びて、完膚なきまでに確実に消えていく中、清水シイタに手を伸ばしていた。仮初の幼馴染だったけれど、それでも自分を友と言ってくれた少年に――。
シイタ。
いいかい。
僕はやはり、この世界は間違っていると思う。
あるべき姿に戻すべきだと思う。
こんな世界になってしまったからには。
こんな世界になった理由があるんだろうけど。
でもそれでも、記憶が改竄され。
いつまでも時は進まないこの世界は。
どんなに安定していて。
どんなに幸せそうに見えていても。
いつかきっとどこかで矛盾を起こし、崩壊する。
あるべき姿ではないものは、崩壊する。
だからシイタ、今僕の話を聞いた君が。
いつか。
いつか。
この世界も。
この世界の人間達も。
元のあるべき姿に戻してくれると――
「シイタ……」
そんな夢物語を脳裏に浮かべながら。
禁断の炎と光に呑まれて、彼は夢物語から退場した――。
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