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シイタにはしかしその時のサギリの表情が面倒臭いだとかセイナのキラキラした目に照れたりうざがったりしているだとかそういうものではないのを見た。果たしてその正体が如何なるものだったか、勿論後で判明したりするのだが今この時点では彼は何も垣間見ていない。
しかしシイタの視線に気付くと直ぐにいつもの表情に戻る。別段シイタも気にはなったものの気に留める事ではないので直ぐに頭からそれは拭い去られた。
「そうだね。こんな事は普通なんでも部の副キャプが言わなければならないんだけどね」
「そうですね」
セイナから向けられる視線に差がありすぎる。差別だ、と思った。主な原因は確かになんでも部副部長にして出ない自分にあるとはいえ。セイナが心からサギリに宗教並みに憧れているとは言え。
「それでセイナちゃん、昼休みに部室へ来てくれないかな」
「えっ……えっ……!?」
だからこそこんな誘いを受けたセイナは気絶しそうなくらいに目を見開き、顔を真っ赤にする。どこまで乙女でどこまで初心を思わせる娘なんだ、とシイタは思った。
「な、なんですか……?」
「まあ、話があるんだ。出来れば一人で着てくれると嬉しいな」
「わ、分かりました、昼の授業が終わり次第直ぐに! し、失礼しますううううっ!」
全力で礼をして、全力疾走でどこかへ言ってしまった。何かの授業の最中ではなかっただろうか。しかしシイタもセイナの心を察していない訳ではない。憧れの相手とは即ち意中の相手であるという事でもある。そんな相手からわざわざ二人きりになるよう提案があれば自分の都合の良いように捉える筈だ。
しかし反対にサギリが何を思って呼び出しなんて真似をしたのか分からなかった。まさかこっちも本当にそのつもりなのだろうか? 確かにセイナは保護色をそそる小動物顔で、その内面も真面目一筋の少女だ。異性として意識しない方が珍しいくらいだが……。
「シイタ、お前にも話がある」
これから告白でもすんの? と言おうとしたその時に言われた。その時の表情は真剣そのものだった。これから一戦交えるかのような表情だった。
「昼休み前、授業を抜け出してでも来て欲しい。なんでも部に。お前にしか出来ない話がある――俺が一番信頼している、お前にしか」
「なんだ? これは俺は恋愛相談ってやつかね」
「そんな事より大事な事だ」
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