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自分を戒めるように、ぎゅっと拳を握り込んで上を見上げていた顔を正面に戻すと、目の前にもりやんのネクタイが見えたから、また顔を上げてもりやんを見上げた。
「江藤さぁー」
「何?」
「彼氏とか出来た?」
「はぁ!?」
話の流れからして、そんなことを尋ねられるとも思っていなかった私は、素っ頓狂な声をあげて思わずぴょんとお尻が飛び上がった。
一体全体、もりやんは何を言ってるんだ!?
「あ、ああありえないしっ」
「……だよな」
「いや、だよなってのも失礼だし」
「まぁーそうなんだけど、さ」
変な言い方だな……とは思いつつジッともりやんを見ると、やっぱりなんだか苦笑い気味に私を見下ろしている。
何だよ一体。もりやんがこんな微妙な空気出してくるのは珍しい。
いつも白黒はっきりってタイプなのに。
「江藤が最近さ、週末に誰かと会ってるらしいとかって話聞いて」
「え……?」
「まぁそういうのは全然いいんだけどな。俺には教えて欲しいなーとか思ったわけよ。同期として、な?」
にぃっと口角を上げてもりやんは私に笑みを見せてくれた。
その顔を見て、私はしまったって思った。恐らくもりやんは心配してくれているんだ。
実は、この会社でもりやんにだけ『私の初ボーナスが奪われた』出来事を教えた。
入社当初から気が合った私は、当時、もりやんと初ボーナスの後飲み会をしようと話をしていた。
けれどそれを失った私は、見るからにおかしな様子でもりやんに飲み会は出来なくなったと話した。そして割とお節介人間の分類に当たるもりやんは、そんな簡単な説明では許してくれず、なぜなんだと問い詰められて洗いざらい吐かされた。
高校の時の話はしてないけれど、もりやんにとってはボーナスの一件だけで、十分私がそう言う恋愛ごとみたいなのを受け付けられなくなったと認識してくれていた。
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