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担当者を降りるのか降りないのか。
そしてこの仕事から退くのか退かないのか。
その決断を求められているのだ、と。
私の意思を、きちんと聞いてくれるのだ、と。
神谷さんの心遣いに、心から感謝した。
てっきり、もうこの仕事には関われなくなると思っていたから。
けれど神谷さんの質問のおかげで……まだこの仕事は、私の仕事として存在していることを、強く意識することができた。
私は静かに、深い呼吸を繰り返す。
心は、決まっている。
ここまで積み上げてきた仕事を、このまま終わらせたくない。
あのデザインをこのまま、お蔵入りになんてさせたくない。
「……私は、逃げたくありません」
顔を上げ、神谷さんと御園さん、二人の顔をしっかり見つめて言う。
「担当者として、最後まで、ちゃんとやり遂げたいです。……御園さんと、一緒に」
私の発言に、驚いた顔をしたのは御園さんだった。
目を見開いたそのリアクションで、私の発言は想定外だったとわかる。
別に、御園さんを思ってのことじゃない。
数々の仕打ちをすぐに許せるほど、私は大人になりきれないし。
お互い、きっと相容れない部分が多くあることだってわかっている。
けれど。
この案件は、御園さんと私の仕事だ。
ここまできたんだから、仕事をしている者同士、最後までやり切りたいに決まっている。
なら、この話し合いでお互い割り切って、クライアントや消費者に喜んでもらえるものをつくりあげるために努力するのが、一番良い。
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