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「それは仕事を放棄するってことで、いいのかな?」
物腰は柔らかいけど、厳しい言葉。
予想外の発言に驚いたのは、私だけじゃなかった。
「そんな……! どうして私が放棄することになるんですか!?」
何を言っているのかわからない、そう表情に書いてある。
そんな御園さんに向かって、何事もなかったかのように落ち着き払った様子の神谷さんは答えた。
「だって、御園は羽村さんと一緒にはできないんだろう? なら仕方ないよ」
がたん、と音が響いた。
御園さんが弾かれたように立ち上がったからだ。
「そ、そんなの、おかしいです! 私じゃなくて、羽村さんを外せば済むことじゃないですか!」
「羽村さんを?」
「ええ、そうです! 神谷先輩はこの人が私に何をしたかご存知でしょう!? こんな失礼な人に仕事を出したくありません!」
興奮した御園さんが、必死になって神谷さんに私を外すよう要求している。
目の前で繰り広げられている問題の当事者なのに、私はどこか、不思議な気持ちでそれを見つめていた。
「そう、か……」
呟いた神谷さんが、うん、と何かを決めたように顔を上げた。
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