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『だから、羽村さんじゃ無理だと何度も言ったでしょう』
「……はい?」
こんな時に、何を?
御園さんの真意が理解できず、私は馬鹿みたいにただ聞き返した。
彼女の態度は変わらないどころか勢いを増して、私を疎ましく思っていることさえ隠さずに続ける。
『いつまでもしがみつくように担当だなんて居座って……迷惑なんです。もっと早く長瀬さんと交代するべきだったのに』
「待ってください、今回のことは」
『言い訳を聞いている暇はありません』
ぴしゃり、私の言葉を遮った御園さんは、すらすらと話を続けた。
『最初から長瀬さんを担当にしていただければ問題なく進んでいたんです。こうなったのは羽村さん、あなたの意地が原因なのでは? 私ははじめから長瀬さんにお願いしたいと申し上げていたはずです』
……この期に及んで、まだそんなことを?
御園さんの言葉を受けた私が最初に思ったのは、それだった。
怒りも悲しみもごっちゃになった感情が、ふつふつとわき上がってくる。
今、大事なのはそんなことじゃない。
まずは正しいサイズのデータを作り直すこと。
そしてクライアント様にきちんと届けること。
私たちの仕事を、きちんとやり遂げることが、一番重要なことじゃないのか。
ただ、受話器をぎゅっと握りしめて耐えた。
耐えるつもり、だった。
けれど。
ぷつん、と。
いままで必死に守ってきた何かが、切れたような気がした。
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