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「羽村さんはね」
そう切り出した神谷さんは、私の方に向き直り、こつん、と額を小突いた。
「自分で頑張ろうとし過ぎ。抱え込み過ぎだよ」
一瞬だけ共有した小さな熱が、じわり、存在感を増す。
額に触れた神谷さんの指先が去ったと同時に、私からは疑問の声が漏れていた。
「……え? ……でも、あれは私の仕事で」
「うん、それはそうだよ。最後までやり抜こうとする羽村さんの姿勢は立派だと思う」
そう言った神谷さんが、再びグラスを手に取った。
ゆっくりと一口、飲み込んだ後、首を傾げて私に言う。
「でもね、さすがにやり過ぎだよ。何のために会社があるの。お互いにフォローし合うためじゃない?」
「フォロー……し合う……」
「そう」
神谷さんは、“正解”とでも言うかのように、私の方を指差した。
その表情は柔らかく、とても穏やかだった。
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