《9》

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スッ……と黙ってその場を離れる黒木さん。 彼女は、そのまま自分のデスクに戻って仕事をし始めた。 それを見届けた課長は、私にだけ聞こえる声で「ふん……嫌な女」と吐き捨てていた。 「………ありがとうございました」 小声で課長にお礼を言うと、彼は「別に何もしてねーけど?」と惚けて笑う。 傷害事件………ではなくて、引っ掻き事件の後、課長に対する後ろめたさから、コソコソと彼を避けていたのだが… それを微塵にも汲み取ってくれないこの男は、普通に接近してくるので困る。 でも、今みたいに黒木さんに絡まれた時に近くに居てくれると便利………ではなくて、非常に助かるし心強い。 引っ掻き傷が治っても、変に警戒しているのか、下手に私に触れてこないのもありがたい。 まぁ、社内で二人っきりになる機会などほとんどないに等しいから当然か。 拉致対策として、帰りも一緒にならないように気を付けているし。 その内、私にちょっかいを出すのにも飽きるのでは……と思っていたのだけれど……… …甘かった。
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