第17話 罠

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 二月も下旬に入り、校庭に一本だけあるいっぱいにつぼみを付けた白梅の木に花が咲き始めた。それはちょうど晶子の座席がある教室の窓のすぐ下にあった。  朝の陽だまりの中で晶子は開け放たれた窓からかすかに漂ってくる甘酸っぱい梅の香を楽しみながら、朝のホームルームの時間をボンヤリ過ごしていた。 「…そして、朝倉さんにお願いすることになりました」  突然、伊藤直美先生が晶子の名前を出したので、晶子はハッと我に返った。すると、教室の皆が一斉に拍手して、晶子に注目した。 「えっ。ど、どうしたの?何かあったの?」  晶子が小声で前の席の朋美に訊いた。だが、朋美が教える前に直美が晶子に声を掛けた。 「それでは、朝倉さん、そしてほかに名前を呼ばれた人も前に出てください」 (えっつ。ええーっつ?)  晶子はわけもわからず内心焦ったが、仕方なく席を立って教壇のところへ行った。そこには、伊藤良平や有村秀太、斉藤かおるがいた。 「えっつ。何?わたしどうして前にいるのかな?」  晶子はかおるの傍に行き小声で訊いた。 「朝倉さんたちは今度の卒業式に送辞を読む在校生総代に選ばれたのよ。しっかりして」  その答えはかおるからではなく、直美からやって来た。クラスの生徒からドッと笑いが起こった。晶子は顔を真っ赤にしながらほかの三人と一緒にガッツポーズをしてみせた。  晶子たち四人はその日の放課後、直美の待つ職員室へ行った。晶子たちが職員室に入ると、直美は机にあったファイルを持って四人を応接室に通した。そこには校長の唐沢育造が待っていた。  晶子たちは育造を取り囲むようにしてソファーセットに座った。育造の隣に座った直美がファイルをコーヒーテーブルに置いて、まず打ち合わせの口火を切った。 「それでは皆さん、今朝連絡したように、わたしたちが今度の在校生送辞を担当することになりました。今回は唐沢校長のご希望もあり、従来と少し違うやり方をすることになりました。いままでは在校生総代は一人で、送辞を読み上げるというのが通例でしたが、今回は、四人で役割を決めて読み上げるというラジオドラマのような手法を採用しました」
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