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「あぁ」
俺は、優輝に背を向けたまま返事を返した。
「本当に?」
今までで初めての優輝の……
親友の挑発的な言葉だった。
「何かあったのか?」
俺は、缶コーヒーを握りしめ、そのまま外を向いたまま聞いた。
「そうだな。橘の酒を飲まされて助けた時も、そしてついさっきも、璃子は俺の前で泣いてた。
だから、抱きしめて……キスして……そのままホテルで抱いた。肌を合わせて、俺が満たしてやっ……」
「やめろよ!」
俺は、優輝の言葉を遮りながら振り向いて、優輝を睨み付けた。
優輝は……笑っていた。
「和也、相変わらず分かりにくいな。お前の感情は。
それじゃあ璃子には伝わらないだろ?
もっと分かりやすく、お前がどれだけ璃子を愛しているのか、みっともないくらい嫉妬している姿を見せてやれよ」
「……優輝」
「そうすれば、璃子は……もっと強くなれる」
「……」
「もっとがっちり愛情で包んで、必要の無い不安から解放してやれよ」
「……わかってるよ」
今回の出張で、3日間も連絡しなかった事を言っているのだろう。
でも、連絡しなかったんじゃない。出来なかったんだ。俺は、反論の気持ちを心で叫んだ。
「わかってないから言ってるんだよ。
次に、もし、璃子が俺の前で涙を流したら……」
「もう次はない!」
俺は、優輝の言葉を遮り言った。
「そうか……ならいいんだ」
優輝は、うっすらと微笑みながら静かに言った。
お互いに手の内を知り尽くした親友同士……
お互いの剣(つるぎ)が、静かに音をたてた。
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