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「じゃあ、璃子ちゃんとは長いお付きあいになるから、キチンと正確なサイズをいただこうかな」
『……長いお付きあい?』
一瞬、引っ掛かりを感じたが、聞き返す事も出来ず、そのまま流れた。
寺坂さんは、胸ポケットから眼鏡を出してかけると、慣れた手つきでメジャーとペンと用紙を用意した。
そして、あたしを大きな三面鏡の前に立たせた。
眼鏡をかけた寺坂さんは、甘さの中に知的さが加わり、思わず見とれてしまうほどだった。ふんわりと薫る上品なコロンの香りが、ひときわ男っ振りを上げる。
肩幅に、肩から手首、背中にと、細部に至るまで手際よく自分が測られ、数字で表されていった。
「じゃあ……最後に」
寺坂さんは、そう言いながら眼鏡を外し、ペンと用紙をデスクに置いた。そして、真面目な顔をしたまま、あたしの瞳をじっと見つめ、両手を広げた。
「おいで……」
「?」
「さぁ、おいで……」
あたしは、意味が解らずキョトンとしながらも、まるで魔法にでもかかったかのように、一歩、歩み寄った。
「ダメです!」
和也さんの声が、一瞬辺りに響いた。
吸い寄せられるように一歩進んだあたしを引き戻すように、駆け寄った和也さんが後ろから羽交い締めするように抱きしめる。
えっ!?
「和也、邪魔するな!」
一気にポーカーフェイスの崩れた寺坂さんが、吐き捨てた。
「璃子に何するんですか?」
慌てた和也さんが、噛みつくように言い返す。
「バカ!1番大切な測定だろっ」
「何の測定ですか?」
「抱き心地だよ」
「そんなの洋服に必要ないです!」
「和也、ひと回りも年下の子なんて、なかなか出逢わないんだから、ちょっとぐらいいいだろっ」
「まったく!相変わらず、油断も隙もないですね」
「和也、1回だけっ」
「ダメです!」
ちょっ、ちょっと、何言ってるんですか?
すでに会話から取り残されていたあたしは、顔を真っ赤に染めて下を向いた。
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