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和也さんは、新しく来る後任との引き継ぎも兼ねて、日中はご挨拶回りに行っていて、夜は送別会というスケジュールをこなしていた。
送別会の無い日の夜は、自室で、ご挨拶状を書いていた。
「和也さん。コーヒーどうぞ」
お揃いのカップに入れて部屋へと運ぶ。
「あぁ、ありがとう。いい薫りがしてた」
「はい」
「ありがとう」
和也さんは、手渡したコーヒーを笑顔で受け取った。
「進んでる?」
「あぁ、あと少し」
ハガキの裏には、会社を退職する旨と、新たにグループに戻るご挨拶とが書かれた文面だけが印刷されていた。
和也さんは、表の宛名と、裏の空白の部分のコメントをお一人お一人手書きで丁寧に書いていた。
「枚数が多いのに手書きってスゴいね」
「あぁ。ほんの数分でいい、ほんの一行でもいいから、相手の顔を思い描きながら、自分の手で書きなさい。っていうのが、亡くなった祖母の教えでね。
うちは全員、手紙は想いを込めて手書きで書くんだよ」
「素敵ね」
「あと数年後の年賀状からは、璃子に引き継ぐ事になるけどね」
「えっ!?」
「頼んだよ」
「……はい」
サラリと笑顔で告げられた言葉に、未来が含まれていて、あたしの心が喜んで跳ねた。
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