◇◇ 第32章 瞬く小さな光 ◇◇

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パタンッと扉が閉まり、プシュ~って、音がしそうなくらいに真っ赤になったあたしは玄関に取り残された。 もぉーっ、和也さんたらっ! 朝からからかわれた事にぷんぷんしながらも、お迎えの車が気になりベランダへ出てみた。 18階からでは、正直あまり良くは見えないけれど、それでも和也さんのシルエットが、黒塗りの車に乗る姿が見えた。 うわぁ……やっぱりスゴいんだよね。 感動と驚きと、淋しさと、気後れと、自分でもよく解らない感情が入り交じるのを感じながら車を見送った。 「げっ、遅刻!」 我に返ったあたしは急いで準備を整えると、マンションを飛び出した。 「遅かったじゃん♪」 会社のあたしのロッカーの前で待ち伏せしていた村上姉さんがうれしそうに言った。 「バタバタしてたら遅くなっちゃいました」 「へぇ~バタバタねぇ~。璃子を置いて行かないでぇ~。なんて言いながらバタついて泣いてたとか?」 「そっちのバタついてじゃありませんよ」 「じゃあ、璃子も連れてってぇ~なんて……」 「あり得ませんからっ!ちゃんと送り出して来ましたよ」 あたしは、村上姉さんの言葉を遮るように言い放った。 「へぇ~大人じゃん」 村上姉さんが、横目でからかうように見ている。 「普通ですよ」 「へぇ~普通ねぇ~」 「もぉー、村上姉さん!」 「キャハハッ、わかったわかった」 笑う村上姉さんに、思わずつられて一緒に笑った。 正直、ちょっぴり淋しかった気持ちが、ふっと吹っ切れ、村上姉さんの明るい気持ちに包まれた。
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