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「あっ、この前はありがとうね。えーっと君は……」
優輝さんは、美紅ちゃんを見ながら話しかけた。名前が思い出せないようだった。
「あっ、早川です」
「早川さん。お釣りありがとう」
「いっ、いえっ」
あっ、自販機の事だ……
一瞬、そう思ったものの、ふたりだけの会話が続き、冴子さんと村上姉さんとあたしは、静かに状況を見守った。
優輝さんは、いつも通りだったが、美紅ちゃんには、少しだけ恥ずかしそうというか、ぎこちなさを感じた気がした。
あっ……もしかして?
男性には興味が無いなんて言ってた美紅ちゃんだったけど、優輝さんに……もしかして!?
あたしがチラリッと村上姉さんに視線を送ると、
「璃子、ちょっと手伝って」
と言われ、あたしは廊下に連れ出された。
「どうしたんですか?」
連れ出されたあたしは、村上姉さんの顔を見た。
「まだ、そっとしとくのよ!」
「えっ!?何がですか?」
「まだ、温かく見守る段階だから、確信を得るまでそっとしておく事!」
「えっ!?やっぱり!?ふたりは!?」
「ちがーうっ!」
「違うんですか?」
「とにかく、今は、まだ温めて育てる段階だから、そっとしておくのよ」
「ええ!?何でですか?せっかくだから、美紅ちゃんの応援してあげましょうよ♪」
「璃子が下手な気を遣って駄目になったら嫌でしょう?」
「困ります」
「でしょ!だから、みんながみんな早々にうまくいく訳じゃないんだし、本人同士も気づいてない感情かもしれないし、だからまだ駄目!みんなで温かく見守って、ゆっくりじっくり味わうのよ。わかった璃子!」
「そうなんですね!優輝さんと美紅ちゃん、お似合いだと思いますもん!みんなで育てるんですね!さすが村上姉さん、恋愛のカリスマ!」
「そういう事だから、まだ、知らん顔してなさい!わかった?」
「はいっ」
そうか!そうなのか!!
カリスマ村上姉さんの見事な恋の道しるべに納得したあたしは、大きくしっかり頷いた。
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