1811人が本棚に入れています
本棚に追加
――6月。
梅雨入り間近の今にも雨が降りだしそうなどんより曇り空。
いよいよ別々の会社へ出勤する初日を迎えた。
あたしの生活は、何ら変わらないせいか?
なんだか、卒業生を送り出す在校生の気分だった。
「和也さんは、何時に出勤するの?」
「いつもの璃子よりも10分先に出るよ」
「えっ!?そうなの?」
「あぁ」
「どうやって行くの?バス?それとも電車?」
自分の支度を整えながら、ふと浮かんだ疑問を口にした。
しかし、なかなか答えが返って来なくて、和也さんの方を振り返った。
「和也さん?」
「あぁ。車が迎えに来るんだ」
「……」
驚きで声が出なくて、瞳をパチパチとさせながら和也さんと視線が交わった。
和也さんは、きっと想像通りだったであろう驚きすぎてるあたしのリアクションに苦笑いという感じの表情を浮かべている。
「そっ、そっかぁ……渡グループの専務だもんね……」
驚きで、気の効いた台詞が出てこない。
「自分で行くって言ったんだけどね。隼人曰く、いろいろあるらしい」
和也さんは、フリーズしているあたしに、微笑みながら呟いた。
「そっ、そうだよね」
いったい何が『そうだよね』なのか解らないまま、とりあえず相槌を打った。
「じゃあ、行ってくるよ」
和也さんは、ソファーから立ち上がると、スーツのジャケットを羽織った。
最初のコメントを投稿しよう!