◇◇ 第32章 瞬く小さな光 ◇◇

5/24
前へ
/40ページ
次へ
就業時間が終わり、あたしは携帯を確認した。 お互いにそうそう個人の携帯に出れる訳ではない仕事だから、連絡はメールでって約束をしていた。 携帯にメールは届いておらず、どうやら、今夜の和也さんはまっすぐ帰宅するようだった。 あたしは急いで帰宅した。 あたしの時もそうだったけど、部署が変わるだけでも大変なんだもん。会社が変わるなんてもっと大変なはず! あたしは、想像は難しいけれど、それでも和也さんの置かれた状況を自分に置き換えて考えて、絶対和也さんも疲れて帰宅すると踏んで、手料理とお風呂の準備を整え帰宅を待った。 「ただいま」 今までよりも少しだけ遅くに和也さんは帰宅した。 「お帰りなさい」 あたしは、子犬のように玄関まで飛び出した。 いつも通りに、和也さんの右手があたしの左手を引き寄せ、小走りだったせいか、そのままバフンッと、和也さんの胸に飛び込んだ。 「ただいま璃子」 「お帰りなさい和也さん」 「今日はどうだった?」 「いつも通りだったよ。和也さんは?」 「璃子に会ったら忘れちゃったな」 「えっ!?」 思わず顔を上げたら…… 「チュッ♪」 あっ…… 一瞬で、あたしの今夜のファーストキスは奪われ、驚くあたしをよそに、いつもよりもにっこり笑っている和也さんの笑顔があった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1811人が本棚に入れています
本棚に追加