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お店は、怪しげな外観とは違い、中は高級料亭のようだった。
庭園は、すでに外が暗くてその全貌を見ることは出来なかったが、部屋の明かりが洩れている範囲で見える近くのところには、大きな陶磁器の水瓶が置いてあり、その中には紫陽花が生けられていた。
地面には芝生の部分と白い小石が敷き詰められている部分があり、きっと、季節にあわせてお花や小石の模様が造り替えられるのだろうなって感じの趣のある上品な雰囲気を醸し出していた。
あたしは、あまりの格式の高い雰囲気に、すっかりカチンコチンに緊張していた。
「璃子、せっかくの個室なのに、それじゃあ寛げないだろ?」
「……」
あたしの心を見透かした和也さんが、笑いかけた。
「失礼いたします」
きっと和也さんの事だから予約をしていたのだろう。びっくりするくらい早くお料理が運び込まれた。
どのお料理もひと口サイズで、小さな置物の作品がお皿に並べられているようだった。
「お飲み物は、いかがいたしましょうか?」
女将さんが、さりげなく和也さんの顔を見る。
「璃子は、何を飲む?」
「あ、あたしは、ウーロン茶で……」
「えっ!?遠慮せずに何かアルコールでも軽く飲んだら?」
「いっ、いえっ。今夜はぜひともウーロン茶で……」
こんな場所で、失態をさらす訳にはいかないし、まず、アルコールが陽気に喉を通って行きそうにない。
あたしは、ウーロン茶をお願いした。
「では、今夜は大切な方をお連れしていますし、車ですので、私もウーロン茶で」
「畏まりました」
女将さんは、微笑ましい姿を見たと言わんばかりに、うれしそうに柔らかな笑顔を向けた。
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