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送別会は、5月の最終日ともあって20時からになっていた。
18時過ぎに社長が帰社した。主の帰宅に、社内だけでなく秘書室が少しだけ活気づく。藤井さんが、本日の状況と明日の予定の確認を終え社長室から出てきた。
あたしは、社長室にコーヒーをお持ちした。
「桜井」
「はい」
「いよいよ一人立ちだな」
「はい」
社長が和也さんの事を言っている。そう思ったあたしは、身の引き締まる思いで返事をした。
「育ての親がいなくなるのは寂しいか?」
「はい。ですが、育てていただいたご恩を返せますよう、しっかり頑張らせていただきたいと思います」
「あぁ、そうだな。
今夜は、松本の労をねぎらって、仲間で送り出してやってくれ」
「はい」
数日前に幹部達との送別会は終えていた。今日は、和也さんを慕う仲間たちとの送別会。社長のお気持ちを汲み取り、あたしは笑顔で返事を返した。
トントン……
社長室の扉を叩く音がした。中から開くと、和也さんが社長への最後のご挨拶の為に扉の前に立っていた。
お互いの柔らかな視線が絡み合う。
「どうぞ」
あたしは、和也さんにそっと声をかけた。
和也さんが入るのと入れ替わりで、あたしは社長室を後にした。
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