◇◇ 第32章 瞬く小さな光 ◇◇

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えっ……!? 一瞬、時が止まったかのような感覚に襲われた。 不安を感じたあたしの理性が、飛んで行きそうなあたしを必死に現実へと引き戻した。 「……旅行かな?」 あたしは一縷(いちる)の望みをかけて、小さな声で聞いた。 「いいや」 和也さんは、揺るぎない強さで、まっすぐに対岸を見つめていた。 「あ、あの……」 あたしは言葉の意味を理解しながらも、それでもなお会話の出口を探していた。 「海外企業との提携話をまとめる仕事を任された」 和也さんが、ゆっくりと落ちついた声で告げる。 「そ、そうなんだ……」 見上げた和也さんの横顔は、大きな仕事を任され、責任と重圧に立ち向かう、やる気に満ちた強い男の表情だった。 「ど、どのくらい……なのかな?」 「まだ解らないけど、半年から1年かな」 「そ、そうなんだ……。い、いつ行くの?」 「10日後」 「と、10日……」 それ以上は、何も言えなくて、あたしはゆっくり視線を足元へと下ろした。 あたしの動揺と同じく、小さな光たちも、乱れ飛びながら瞬いていた。
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