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「隼人さんもお嬢様の気まぐれって解っていながら、青木社長の言うことを断れないって事は、かなり日本もキツい状況なんでしょうか?」
「そうだろうな」
俺は、昼間にかかってきた隼人の様子を思い出しながら、拓巳に答えた。
「1日も早く、おふたりが日本で揃わないといけないですね」
「そうだな。早くこっちを終わらせないとな」
「ええ。早く日本とニューヨークの往復生活から俺を解放してください」
拓巳は、得意のジョークで場を和ませながらニヤッと笑った。
ホッとひと息つきながらジントニックをひと口流し込む。
カランッとグラスの氷が音をたて、拓巳が、遠慮がちに呟いた。
「松本さん、さっきの……」
「んっ?」
俺は、拓巳の呼び掛けに、拓巳の横顔を見た。
「さっきの。麗香さんが勘違いした表情は……。
璃子の事を考えていたんですか?」
拓巳の瞳は、グラスを見つめたままだった。
「……あぁ」
俺は、素直に認めた。
「はぁーっ。……ったく。あの女の前で気を抜くのは止めてください!」
「すまなかった」
ため息混じりで注意をする拓巳に、俺は素直に謝った。
「何度も声をかけたのに、カシャッなんて撮られるんっすもん」
「本当にすまなかった」
「まぁ、良いもの見れたからいいんですけどね」
拓巳は、俺を見ると、にっこり笑った。
そして、また、ゆっくりとジントニックをひと口飲むと、静かに続けた。
「そうですか。
璃子は……アイツ、松本さんにあんな表情させるんですね」
「あんな表情?」
「俺が言うのも気持ち悪いですけど、見たことないくらい穏やかで、惚れちゃうくらいに甘く優しい表情でした」
「……そうか」
「はい」
「惚れるなよ」
「そんな趣味ないですから」
俺は、拓巳と目を見合わせて笑った。
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