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「お待たせいたしました」
拓巳の前に新たなジントニックが差し出され、手持ちぶさただった拓巳の手は落ち着きを取り戻し、また会話を続けた。
「本当にアイツは、なんでもまっすぐ一生懸命だから……」
「あぁ。そうだな」
「不器用で、ただ一生懸命まっすぐに進むことしか知らなくて、素直なのに頑固なところがあって、危なっかしくって。
そして、鈍いうえに人が良すぎて人を疑うって事を知らないんっすよ。
だから、騙されてても、意地悪されてても全然気づかなくって。
『罪を憎んで人を憎まず』みたいな感じで。
そんなアイツが、あの岩崎社長の秘書なんてやっていけるんですかね?」
「大丈夫だよ。凄腕の藤井さんって方が、ビシバシ育ててるから。
それに、あの璃子の素直さと謙虚さは、教え甲斐があるし、育てるうえでは、とても大切な要素になる。
やはり、人と人を繋ぐ仕事だから、技術的なこと以上に、最後は人間性の問題になってくるからね。
人を育てる事で定評のある岩崎社長の『信頼』という信念にも合っているし、璃子は、立派に育つよ」
「そう言っていただけると安心するんですが、見てるこっちがハラハラしてしまって……」
璃子の辛口批評をしている拓巳の眼差しは、それとは対照的に、温かく柔らかだった。
「クスクス……」
「……っていうか、すいません」
俺の笑いに、拓巳は、我に返ったのか、照れながら慌てて謝った。
「いや、いいよ。愛のある璃子批評なら、出来れば聞いてみたいから続けて」
「じゃ、じゃあ……」
俺の言葉にホッとしたのか、拓巳は璃子の話を続けた。
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