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「あのっ、あたしも払います」
お会計をする優輝さんに声をかけた。
「いいんだよ。お昼ご飯をおごってもらったお礼と、無理やり俺につき合ってもらったお礼だから」
「あのっ、でも」
「璃子、これ以上、恥かかせるな」
優輝さんは、ニコッと笑った。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「どういたしまして。でも、由香里や冴子には言うなよ、アイツらにバレたらたかられるから」
ニヤッといたずらっぽく笑う優輝さんと、目を見合わせて笑った。
ホテルを出て走り出した車の中から、ゆっくりと流れる夜の街並みを、あたしはぼんやりと眺めた。
まだ、考えちゃいけない。
まだ、思い出しちゃいけない。
あたしは、ギュッと鞄の持ち手を握りながら必死に平静を装っていた。
エントランス前に車が横付けされた。
「明日から仕事だな」
「そうですね」
「璃子、お休みなかっただろう?」
「まだまだ新人ですから。優輝さんも、ずっとお仕事されてたじゃないですか」
そんなたわいもない会話を交わしながら、シートベルトを外した。
降りようとドアノブに手をまわしかけたあたしの右手首が、ぐっと掴まれた。
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