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「璃子さん」
麗香さんは、語りかけるかのように優しくあたしの名前を呼んだ。
「……はい」
「私、あまり余計な言い争いはしたくないのよ」
「……はい」
って、全然あたしは何にも言えてない。でも、麗香さんの微塵も動じない圧倒的な空気に飲み込まれ、思考もついて行かなければ、言葉さえ出せなかった。
「璃子さんは、和也さんの為に何をしてあげられるの?」
「えっ!?」
新たな質問に、また言葉を失った。
あたしが、出来ること?
必死に考える。あたしが出来ること……お食事作ること?笑うこと?って、そんな事じゃないよね?
あたしの心を読んだのか?麗香さんは、フッと笑った。
「私はね、和也さんが望めば、何があっても、どこへでも駆けつけるわ」
「……」
それは、間違いなく誕生日の事を言っているのだろう。
この2ヶ月、電話はおろか逢うことさえままならないあたしには、痛いひと言だった。
反論どころか、言葉さえ出ないあたしに、麗香さんは、さらに続けた。
「それにね。私なら、もし、会社に何かあった時にも助ける事が出来るし、和也さんを渡グループの社長にすることが出来るわ」
それは、渡グループの第2大株主である青木社長のご令嬢であるという事を指していた。
今まで以上に力強く発せられた言葉と、鋭く刺さる眼差し。
あたしには……そんな事、出来ない。
あたしは、耐えられずに、そっと目線を床に逸らした。
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