◇◇ 第38章 崩れる心 ◇◇

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「璃子さん」 麗香さんは、語りかけるかのように優しくあたしの名前を呼んだ。 「……はい」 「私、あまり余計な言い争いはしたくないのよ」 「……はい」 って、全然あたしは何にも言えてない。でも、麗香さんの微塵も動じない圧倒的な空気に飲み込まれ、思考もついて行かなければ、言葉さえ出せなかった。 「璃子さんは、和也さんの為に何をしてあげられるの?」 「えっ!?」 新たな質問に、また言葉を失った。 あたしが、出来ること? 必死に考える。あたしが出来ること……お食事作ること?笑うこと?って、そんな事じゃないよね? あたしの心を読んだのか?麗香さんは、フッと笑った。 「私はね、和也さんが望めば、何があっても、どこへでも駆けつけるわ」 「……」 それは、間違いなく誕生日の事を言っているのだろう。 この2ヶ月、電話はおろか逢うことさえままならないあたしには、痛いひと言だった。 反論どころか、言葉さえ出ないあたしに、麗香さんは、さらに続けた。 「それにね。私なら、もし、会社に何かあった時にも助ける事が出来るし、和也さんを渡グループの社長にすることが出来るわ」 それは、渡グループの第2大株主である青木社長のご令嬢であるという事を指していた。 今まで以上に力強く発せられた言葉と、鋭く刺さる眼差し。 あたしには……そんな事、出来ない。 あたしは、耐えられずに、そっと目線を床に逸らした。
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