◇◇ 第38章 崩れる心 ◇◇

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暫し、互いに沈黙の時が過ぎた。 そして、その沈黙を破ったのも麗香さんだった。 「もう、よろしいかしら?会場に戻らなくてはいけないの」 もう、というより、初めからあたしには応戦する力なんて残っていなかった。 やっと追いついた思考も、あたしの完敗を認めていて。あたしの心は、すでにぼろぼろだった。 なのに、あたしの口は、小さく心の声を口にした。 「それでも……それでも。 あたしは、和也さんの事を誰よりも大切に思っています」 自分でも、驚くほど静かに自然と口にした言葉が、麗香さんに届く。 「もう少し賢い方だと思っていたのに。残念だわ」 フッと一瞬笑った麗香さんは、最後にそう言い残すと、あたしをその場に残し、会場へと立ち去った。 『惨め』だった。 あまりの完敗ぶりに、涙さえ出ない。あたしは、呆然と立ちすくんだ。 あたしの横を、会場から来た招待客が会話をしながら通りすぎた。 「ねぇ、今夜って松本専務の婚約披露も兼ねてるの?麗香さん、今もベッタリだったじゃない」 「しっ!駄目よそんなこと言っちゃ」 「まぁ、青木社長のご令嬢なら、文句も言えないけど」 「まぁね」 無責任な野次馬の言葉に、あたしは、堪らず化粧室から飛び出した。
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