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暫し、互いに沈黙の時が過ぎた。
そして、その沈黙を破ったのも麗香さんだった。
「もう、よろしいかしら?会場に戻らなくてはいけないの」
もう、というより、初めからあたしには応戦する力なんて残っていなかった。
やっと追いついた思考も、あたしの完敗を認めていて。あたしの心は、すでにぼろぼろだった。
なのに、あたしの口は、小さく心の声を口にした。
「それでも……それでも。
あたしは、和也さんの事を誰よりも大切に思っています」
自分でも、驚くほど静かに自然と口にした言葉が、麗香さんに届く。
「もう少し賢い方だと思っていたのに。残念だわ」
フッと一瞬笑った麗香さんは、最後にそう言い残すと、あたしをその場に残し、会場へと立ち去った。
『惨め』だった。
あまりの完敗ぶりに、涙さえ出ない。あたしは、呆然と立ちすくんだ。
あたしの横を、会場から来た招待客が会話をしながら通りすぎた。
「ねぇ、今夜って松本専務の婚約披露も兼ねてるの?麗香さん、今もベッタリだったじゃない」
「しっ!駄目よそんなこと言っちゃ」
「まぁ、青木社長のご令嬢なら、文句も言えないけど」
「まぁね」
無責任な野次馬の言葉に、あたしは、堪らず化粧室から飛び出した。
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