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駆け出したあたしは、そのまま急いで会場入口を見た。
正面入口ではない、もう一方の扉の前に、会場から出ようとしていたのだろうか?本来なら中に居なくてはいけない和也さんがいた。
その横には、さっきの招待客が話していた通り麗香さんがいて、和也さんの左腕に自分の腕を絡め何やら話している。
いつもあたしと歩くときは手を繋いでいたから、あたしが触れたことのない和也さんの左腕の肘に、麗香さんは躊躇することなく腕を絡めていた。
もはや、誰が見ても婚約者同士のふたりの姿に、あたしの瞳は釘付けとなった。
一瞬、あたしに気づいた麗香さんが、フッと笑った気がした。
そして、そのまま和也さんを会場内に引き戻した。
自然と呼吸が浅くなる。
その時、また頭の中に和也さんの声が聞こえた。
『璃子、慌てるような咄嗟の事態になった時は、まず、ゆっくり気持ちを落ち着けて深呼吸する事』
……和也さん。
こんな時でさえ、あたしの心には、和也さん、貴方がいる。
こんな時でさえ、貴方はあたしの心を支えて、育ててくれている。
……和也さん。
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