◇◇ 第38章 崩れる心 ◇◇

18/39
前へ
/40ページ
次へ
駆け出したあたしは、そのまま急いで会場入口を見た。 正面入口ではない、もう一方の扉の前に、会場から出ようとしていたのだろうか?本来なら中に居なくてはいけない和也さんがいた。 その横には、さっきの招待客が話していた通り麗香さんがいて、和也さんの左腕に自分の腕を絡め何やら話している。 いつもあたしと歩くときは手を繋いでいたから、あたしが触れたことのない和也さんの左腕の肘に、麗香さんは躊躇することなく腕を絡めていた。 もはや、誰が見ても婚約者同士のふたりの姿に、あたしの瞳は釘付けとなった。 一瞬、あたしに気づいた麗香さんが、フッと笑った気がした。 そして、そのまま和也さんを会場内に引き戻した。 自然と呼吸が浅くなる。 その時、また頭の中に和也さんの声が聞こえた。 『璃子、慌てるような咄嗟の事態になった時は、まず、ゆっくり気持ちを落ち着けて深呼吸する事』 ……和也さん。 こんな時でさえ、あたしの心には、和也さん、貴方がいる。 こんな時でさえ、貴方はあたしの心を支えて、育ててくれている。 ……和也さん。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1368人が本棚に入れています
本棚に追加