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「優輝さん、どうされましたか?」
突如、ふたりの静寂を破ったのは、聞き慣れた声だった。
……えっ?
あたしは、ぼんやりとしたまま声の方を見上げた。
「……拓にぃ」
「どした璃子。階段から落ちたのか?」
散らばったあたしのヒールと鞄を拾い集めながら、あたしの目線にしゃがんだ拓にぃが、微笑む。
「うん」
あたしは、自然と答えていた。
「ったく。お前はしょうがないなぁ。おいで」
スッと躊躇うことなく差し出された手が、あたしを簡単に優輝さんから引き剥がし、ひょいと抱えあげた。
「優輝さん、会場に戻られていいですよ。俺、コイツをグループの医者を待機させてる部屋に連れて行ってきますから」
「いや。一緒につき合うよ」
優輝さんは、あたしのヒールと鞄を持って立ち上がった。
「すいません。ご迷惑おかけして」
拓にぃは、あたしの代わりに優輝さんに謝ってくれた。
ふわりと抱えられた腕。
子どもの頃に遊具から落ちたあたしを家まで連れて帰ってくれたあの日の安心感が、そこにはあった。
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