◇◇ 第38章 崩れる心 ◇◇

38/39
前へ
/40ページ
次へ
「璃子とは直接話すんでしょ?」 「……」 「和也?」 心配そうな顔をした冴子が俺の顔を覗き込む。 「拓巳、明日の飛行機の時間、1本ずらせるか?」 「無理です。1本送らせれば、先方との会議に間に合いません。もし、キャンセルなんて事態になったら、数ヶ月の遅れを生み出しかねませんし、最悪、この2ヶ月間の努力が全て無駄になってしまいます」 拓巳は、語気を強くして反対した。 そう。ニューヨーク到着後には、今回の提携話のキーマンである重要人物との会議が待ち構えていた。 璃子の為なら、地位や名誉なんて要らないし、いつでも辞職する覚悟はある。 だが、俺が行かなければ、会社に多大なる損失を与え、グループ社員を路頭に迷わせる事になりかねない。 俺ひとりの我が儘が通るはずもなかった。 「すまないな」 隼人が、俺を見て呟いた。 「いいや。隼人が謝る事じゃないよ」 ガラにもなく神妙な顔をしている隼人に、俺は返事をした。 「じゃあ、あたしが聞くわ」 「いいや止めとけ」 冴子の言葉に優輝が答えた。 「なぜ!?」 「俺は、あれから何度か璃子に声をかけてるんだ。だが、璃子は、ひと言も口を割ろうとはしなかった。 多分、俺と冴子の事も麗香に何かを吹き込まれている可能性が高いだろ」 「確かに。そのぐらいの事は想定しておくべきね」 冴子は、口に手を当て黙った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1368人が本棚に入れています
本棚に追加