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「璃子とは直接話すんでしょ?」
「……」
「和也?」
心配そうな顔をした冴子が俺の顔を覗き込む。
「拓巳、明日の飛行機の時間、1本ずらせるか?」
「無理です。1本送らせれば、先方との会議に間に合いません。もし、キャンセルなんて事態になったら、数ヶ月の遅れを生み出しかねませんし、最悪、この2ヶ月間の努力が全て無駄になってしまいます」
拓巳は、語気を強くして反対した。
そう。ニューヨーク到着後には、今回の提携話のキーマンである重要人物との会議が待ち構えていた。
璃子の為なら、地位や名誉なんて要らないし、いつでも辞職する覚悟はある。
だが、俺が行かなければ、会社に多大なる損失を与え、グループ社員を路頭に迷わせる事になりかねない。
俺ひとりの我が儘が通るはずもなかった。
「すまないな」
隼人が、俺を見て呟いた。
「いいや。隼人が謝る事じゃないよ」
ガラにもなく神妙な顔をしている隼人に、俺は返事をした。
「じゃあ、あたしが聞くわ」
「いいや止めとけ」
冴子の言葉に優輝が答えた。
「なぜ!?」
「俺は、あれから何度か璃子に声をかけてるんだ。だが、璃子は、ひと言も口を割ろうとはしなかった。
多分、俺と冴子の事も麗香に何かを吹き込まれている可能性が高いだろ」
「確かに。そのぐらいの事は想定しておくべきね」
冴子は、口に手を当て黙った。
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