1368人が本棚に入れています
本棚に追加
和也さんに渡され覚えて来たファイルの中のそれぞれの企業のトップたち。
今まで幾度も頭を下げてきた彼らに、逆に、新社長の隼人さんと新専務の和也さんが囲まれる光景。
あたしは、思わず息を飲んだ。
すぐそこにいるはずなのに、あまりに多くの人に囲まれていて、あたしからは和也さんを認識する事は出来なかったけれど、多分、あの人だかりの中にいる。
ここにいる専務の和也さんは、あたしの目の前にいた、知っているはずの和也さんではなかった。
知っていたはずなのに……
解っていたはずなのに……
初めて実感した立場の違いという大きな壁の存在に、同じホールにいるとは思えないほど、和也さんを遠くに感じた。
まるで夜空の星のように。
寄り添っているように見えて、本当は、何億光年も離れているような存在。
……和也さん。
あたしは、抜け出せないブラックホールに飲み込まれたようだった。
「……子、璃子?」
「はっ、はいっ!?」
不意に呼ばれた名前に、驚いて優輝さんを見上げた。
「一度、出ようか?」
「だっ、大丈夫です」
柔らかな中にも、心配の色を濃くした優輝さんの眼差し。
「いいや、一度、出よう」
普段から、語気を荒げる事のない優輝さんが、あたしの様子に、一度落ちつかせようと思ったのだろう。半ば強引に腰に腕を回してあたしを会場の外に連れ出した。
最初のコメントを投稿しよう!