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朝になり、支度の時間を迎えた。
俺は、時間の許す限り璃子のそばにいた。
少し期待したものの、璃子が目覚める事はなかった。
「璃子。
俺を、俺だけを信じて待ってろ!」
俺は、祈るように強く抱きしめ呟いた。
「……行ってくるよ」
璃子にそっとキスを落とした。
出発30分前、支度を整えると、俺と入れ違いで璃子を迎えに来てくれる事になっている優輝からメールが入った。
『ロビーにいるから、時間になったら連絡をくれ』
俺はすぐに優輝に電話をかけた。
「コーヒーを淹れたから一緒にどうだ?」
「ありがとう。すぐにいくよ」
まもなく、優輝が部屋にやって来た。
「璃子は?」
「まだだ。かなり疲れていたようだ」
「医者もゆっくり休ませるようにと言っていたからな」
「そうか」
「和也、お前は大丈夫なのか?」
「あぁ。移動中に寝ればすむから大丈夫だ」
「違うよ。心だよ」
俺は、優輝にコーヒーを差し出した。
「……大丈夫だよ」
俺の返事に優輝は、苦笑いを浮かべた。
「覚えているか?」
「んっ?」
「社員旅行のあと、お前が璃子に冴子との誤解を解こうとした夜のことを」
「……あぁ」
覚えている。出張先から慌てて戻ったあの日。優輝と璃子が、出先から食事をして帰宅したあの日。
「お前がフラれたら教えてやるって言ったこと覚えているか?」
「あぁ……」
優輝が憔悴していたあの日……
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