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「あの日の夜、俺は、和也、お前から璃子を奪ってやろうと思っていたんだ」
「……」
「かなり本気で告白した。
和也を忘れさせてやるってな」
何かがあったであろうとは思っていたが、親友の告白に衝撃を覚えた。
コーヒー片手に、視線が交わる。次の瞬間、優輝が笑った。
「だが、駄目だった。
璃子は、何て言ったと思う?」
「……なんて?」
「脈なしって解ったから、すぐに、はぐらかしたんだ。軽く冗談言いながら笑いあった。
だが、その後、夜景を見ながら璃子は無邪気に呟いたんだ……」
「……」
俺は、思わず息を飲んだ。
優輝は、一瞬、思い出すような切ない眼差しを浮かべたあと、まっすぐに俺を見て口を開いた。
「『あたしに初めてをたくさん教えてくれた人だから、もう一生、和也さんの事は忘れられないと思う』
そう言ったんだ。
解るか!?忘れさせてやるって言ったのに、忘れられないってな」
「……優輝」
俺は、あの日、優輝が憔悴していた理由を知った。
「だから何だと言うかもしれないが、璃子は、和也、お前を忘れる事なんて出来ないと思う。
1日でも早く、仕事を片付けて戻って来い!」
「……優輝」
「早く、安心させてやってくれ」
まっすぐ向けられた眼差しが、俺を励ましていた。
「わかった」
俺は、力強く頷いた。
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