1555人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしもし?」
思わず父の声に、緊張マックスで声が詰まった。
「……」
「もしもし?」
「……あ、お、お父さん」
「璃子?」
「あ、うん、あたし……お母さんいる?」
「拓巳くんの家に行ってるよ」
「あー……そっか」
「璃子、何かあったのかな?」
うちの父親は、仕事柄か?こういう時、めちゃめちゃ鋭い。
「……」
緊張で声が出ない。
「璃子?」
あたしは、怒られる覚悟を決めた。
「……あの、お父さん、あのね。実は、ちょっと、会社でミスをしまして……」
「そう。それで?」
「……責任を取りまして、辞めました」
……言っちゃった。
とりあえず、ひとつ目を吐き出したものの、鼓動が早まり、変な汗が出てきた。
「そうか。大変だったな」
「えっ……」
拍子抜けするほどのあっさりとした返答に、伝えたあたしが驚いた。
「それで?どうするんだ?」
父親は、尚も穏やかに尋ねる。
「えっ、あっ、あの、それで、社長が次の働き口を紹介してくださって、そこに行ってみようと思って……」
「そうか」
「それで、あの、実家に戻ろうか、と……」
「そうか」
「……いいかな?」
「璃子、キミの家だよ。いつでも戻っておいで」
「……」
涙が止まらなかった。
「戻ってくる日が決まったら、母さんに連絡しなさい」
「……はい」
「楽しみにしてるよ」
父は、そう言うと電話を切った。
最初のコメントを投稿しよう!