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「えっ……うそっ……」
あまりにあっさりな父親とのやり取りに、あたしは、通話の切れた携帯を見ながら呟いた。
『楽しみにしてるよ』
最後の父親の言葉が、頭の中で繰り返される。
お父さんは、何かを知っていたのだろうか!?
いや、そんなはずはない。
電話口のあたしの気配と言動から、きっと、何かを感じ取ったのだろう。
何も聞かずに、ただ、気持ちよく受け入れてくれた父親。
戻ったら、吐き出せた仕事の事も、そして、吐き出せなかった和也さんとの事も、きちんと説明しよう。
あたしは、父親の態度に、申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
翌日、引越業者に連絡を取った。
引越は、3日後に決まり、午後には、手際よく段ボールや梱包資材が運び込まれ、あたしは、荷造りを始めた。
たったひと部屋の荷物は、あっという間に片付いた。
プレゼントされたドレッサーは、当然、実家のあたしの部屋には入らないから、そのまま置いてゆく事にした。
ドレッサーに飾っていたウェディングドレスを着て撮った和也さんとのたった1枚のツーショット写真は、大切に包んで手持ちのトートバッグに入れた。
そして、キッチンから、ペアカップのあたし用の方を取り出して、同じくトートバッグに入れた。
あとは……
ゆっくりと部屋を見渡して、少しずつ、あたしの私物を回収していった。
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