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「すぅーーっ、はぁーーっ」
夕方、実家に到着したあたしは、忍者のように壁に張りつき、家の門の前で大きく深呼吸した。
こんな日に限って土曜日だなんて……
お父さんも仕事がお休みで家にいる。
……仕方ない。行くしかない!
「ヨシッ」
気持ちを整え、口角を上げ、笑顔を作った。
シャーッ……
「ひぃっ!?」
突然、頭から降りかかった水に声をあげて飛び出した!
「おおっ璃子、そんな所で何してる?」
「げっ!?」
あたしの気持ちの準備は、父親の庭への水撒きの水によって、あっさり崩れ落ちた。
「おかえり」
「た、た、ただいまっ」
「届いた荷物は、璃子の部屋に入れといたぞ」
「あ、ありがとう……」
それだけ言うと、お父さんは水撒きを再開した。
張り詰めた緊張とは裏腹に、あたしは、一瞬で、わが家の日常の空気に包まれた。
「ただいま……」
玄関を開けると、お母さんは、お友達と楽しそうに電話をしていた。
「あらっ、ちょっと待ってね。
璃子ちゃんおかえり。荷物の中から、お布団だけ出して干しておいたから。さっき片付けてベッドに置いといたわよ。
お待たせしてごめんなさいね……」
「あ、ありがとう……」
お母さんは、電話をしながら笑顔でそれだけ言うと、また電話に戻った。
あたしは、父と母の作り出した日常に、とても普通に、温かく迎え入れられた。
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