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お互いに、デニムとTシャツで、拓にぃはスニーカーに、あたしはサンダルというラフな格好だった。
懐かしい景色を見ながら、通学路の途中にある焼き鳥屋さんまで歩く。
「璃子、鞄は?」
「えっ!?要らないでしょ?」
「財布は?」
「そこにあるじゃん」
あたしは、拓にぃのデニムのポケットに差し込まれた財布を指差した。
「なっ!?」
「お腹いっぱい食べさせてくれるって言ったじゃん」
「まったくお前は、あの時も……」
拓にぃは、何かを思い出したようだった。
「どしたの?」
「……いや、なんでもない」
拓にぃは、派手に思い出したくせに口ごもった。
「何よ!?気になるじゃん」
「あーっ、その、お前が俺の財布を自分のと思ってるって話で思い出したんだよ」
「何を?」
「松本さんの誕生日の時に、食事のあとBarでお前の代わりに俺が奢った事を……」
……食事のあと?少し何かが引っ掛かった気がした。
「……そっか」
「ごめん!どうでもいいことだったなっ」
嘘をつけない素直な拓にぃらしい会話に、胸がチクンッと痛んだ。
「拓にぃありがとう。あの時、メールもらったんだよね。松本部長喜んでたよ。あっ、専務かっ」
わざわざ役職付きで名前を言ってみた。
あの時は、まだ幸せで……こんな事になるなんて想像すらしてなかった。
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